IVF研究所におけるIVFキャビネットの役割

体外での卵母細胞や胚に影響を与える外部要因

卵母細胞や胚のハンドリング中において、物理的/化学的変化からそれらを守る必要があります。

特に、下記変化に注意します。

  • 温度変化

  • 培養培地の浸透圧及びpH

  • 空気品質

 

A. 温度

  • 卵母細胞(発育過程における女性の生殖細胞)は、温度変化に非常に敏感

  • 温度シフトは、膜輸送体時および多くの細胞内代謝過程に影響を与える可能性がある

  • ヒトの卵母細胞や胚は、37 ℃に安定した、かつ、できるだけ密閉した環境で管理する必要がある

  • 温度はサンプルのpH値に影響する

  • 蒸発はサンプルのpH値に影響する

  • 培養皿内の卵母細胞や胚は、顕微鏡観察中も、顕微鏡の加熱ステージ(付属品、もしくは、内蔵品)で温度制御される

  • 多くの使い捨てのプラスチック製培養皿の底は平らな顕微鏡の加熱ステージに完全にフィットできず、熱伝導効率が大きく低下するので注意する

  • キャビネットの温調可能作業面で、培養皿内の培地の冷却が可能

 

B. 培養培地の浸透圧とpH値

IVFで使用される培地は、緩衝液(バッファ)としての役割も担う「連続培養培地」の普及に伴い、近年著しく発展してきました。連続培養培地は、卵母細胞の回収から受精、卵割を通じて胚盤胞へ変化するプロセスの各段階を適切にサポートします。

培養培地は、少なくとも二酸化炭素が豊富な雰囲気下で使用するのが正しい使用方法です。

さらに最近では、酸素分圧を通常の空気よりも低い状態にすると、ヒト胚はより良好な発育、さらには、高い着床力を示すと言われています。

しかし、CO2濃度とO2濃度(以下、体積パーセント濃度を扱う)、及び各分圧の関係性は少々複雑です。

高い標高下では、気圧の低下が起こります。さらに、酸素や窒素、その他少量の気体の相対比率も変化します。例えば、海抜0 mでのO2濃度は20.95 %、海抜1000 mでは18.55 %、海抜1600 m(例えば、デンバー)では17.2 %になります。

同様の変化によって、以下に示すような場合に必要とされるCO2濃度が変わります。

例えば、海抜0 mの地点で、25 mMの炭酸水素溶液中でpH7.3を達成しようとすると、ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式 (Henderson–Hasselbalch equation)により、6.0 %のCO2濃度が必要であると求められます。一方、海抜1600 mの地点では、約7.5 %のCO2濃度が必要であると求められます。

CO2濃度が不足し、最適なCO2分圧(ppCO2)を確保できないと、pHがシフトし、溶液が新たな平衡状態に達するまで重炭酸イオンを失ってしまうことになります。

重炭酸イオン緩衝液の主な問題は、平衡に達するまでに長時間かかることがあげられます。しかし、ガス放出は非常に迅速です。

最近の研究[4]では、オイル下の50 μlの培地滴は、培養皿をCO2インキュベーターから取り出すと、2分以内にpHが7.45より大きな値へシフトして、ガス放出すると発表されています。CO2インキュベーター内の培養皿を交換した後は、pHの再平衡化まで35分かかると示されています。(5 mLの培地を含むペトリ培養皿では、約15分で済みます。)

これらの違いは、インキュベーター内雰囲気と部分的にガス放出した培地との間、また、平衡化した培地と空気との間の、相対的なCO2量の差によるものです。

最後に、培地は、水分蒸発を防止するために、湿度が飽和に近い環境で扱われます。より温かい環境であるほど、水分蒸発は起こりやすくなります。そこで、オイル重層により、培地の水分蒸発を防止する場合もあります。しかし、卵母細胞の回収時は、手順が大幅に複雑になるため、培養皿はオープンな状態でおかれ、オイル重層も行われないのが一般的です。

 

C. 空気品質

HEPA(high efficiency particulate air)フィルターは、その名のとおり、空気中から微粒子を高効率で取り除くシステムです。低分子量の気体分子だけを捕集できると思われがちですが、低分子量気体の有機及び無機化合物も捕集します。(3ミクロン粒子で99.97 %の捕集効率)

IVF/ART研究室や作業空間が、揮発性有機化合物(VOC)やその他大気汚染物質の充満した高リスク環境となる。というのは、大きな誤解です。